ポケモン小説


――風が吹く。

風はトキを告げる。




「さてぇと」
「ホキ様?」
「…そろそろ来るみてェだ。休憩お、しまいっ」
「…あい。アタシは」
「そこにいれ。どーせ気づかねェよ、ヤツは」
「あい」




厚ぼったいモノに覆われて、濁った光筋だけを通す。
素顔は見られないのだ…この街では。

少年は銀色の髪を薄灰色の風に晒しながら、塗りたくられた空を仰いだ。
そのまま、活動を止める様子のない煙突達を視界に入れる。

彼の足はガラクタを踏み進んだ。黒いトタンがべこっ、べこっ、と声を上げる。
…最高に辺りを見回せる位置に到達する。
途端に、トタンの声も止む。…景色は最低だ。


エルラ国アリアノ。
昇気術師 ジン・ローディアが、この地に「アリアノ」と名づけて約1000年。
今では国が誇る最大の重工業都市である。
反面、公害問題は深刻で、それによる死亡者などは増加の一途を辿っている。
…国の重い腰は、まだふかふかのソファにはりついたままだ。

親を公害で亡くした子供達が、"ガラクタ広場"に小さい町を作っているものだから救いよ
うがない。

……彼も、そうなるはずだった。

「ルイ!そろそろ帰れよ」

後方10m先、彼の耳が自分を呼ぶ声を拾いあげた。
顔を向けたその先に、見慣れた人間を認める。

「ルイー…メシ!」
「おれはメシじゃないぞ」

ルイ、と呼ばれた少年は一度浅いため息をつき、親友の少年・レンのもとへと向かって歩
き始めた。
…バックでは、アリアノでも最大の煙突が影を吐いている。
ルイは振り返って、その姿をにらみつけた。

ヤツは怯む様子もなく、影を吐き続けていた。